「しょうがない」と思えない時はそこから全力で逃げるのもありだと思う

先日、昔の職場の方と食事をする機会があった。

 

彼女は「橋本病」という甲状腺の病気にかかっていて(成人女性の7人に1人が素質を持っている)最近退院したところだったんだけど「〇〇さんの住まいの近くに通院してるんでランチしましょう」ということで、ひさしぶりに再会。

 

「橋本病」は自己免疫疾患で、自分の抗体が甲状腺の細胞を攻撃・破壊してしまう

病気。症状としては、疲れやすくなったり息切れをしたり、眠気・疲労感・無気力・記憶力の低下・しびれなど。ちょっと慢性疲労症候群にも似てる。

上記の症状が出て入院や治療が必要になる人は患者の3割くらいで、ほとんどの人は治療の必要がなくて自分が病気なことにもあまり気づかないらしい。

 

件の同僚は職場で「デコルテが急に痩せてる気がする」と言われて病院を受診して病気を発見。で、即入院。けっこうハード&ストレス過多な職場だったので、常に疲労状態だったという。これが病気のせいなのか仕事のせいなのかわかりにくい状況だったのも受診が遅くなった原因らしい。休みも希望を出しにくかったしね。

 

 「食欲だけはあるんだよね」と笑う彼女と一緒に行ったのはインド料理の「MILAN」。

カレーもあまり辛くないし、ナンも美味しい。海老カレーが好きなのでそれを2辛で。

食べ始めて気づいたんだけど、ここのお店はカトラリーが重くてうまく使えず左手からフォークを何回も落としてしまった。最近はだいぶいいんだけど、日によってしびれとこわばりが強くなる感じ。これは薬では治らない。

カレーを食べながら「どうも自分たちがいた職場はやばい職場だよね」という話になった。世間からは割と知られていて、表はホワイトに見えるんだけど中身はなかなかブラックなその会社は、ここ数年で社員の年齢比率がだいぶ変わってしまった。理由は「自爆営業」と呼ばれるノルマの悪評で人が入ってこないことと、旧態以前の企業体質が組織の腐敗を招いていること、さらに近年の「人を大切にしない会社づくり」で長年働いた中堅層が次々に辞めていくこと。中でも病気の発症により辞める人も多い。そのまま亡くなった人も居る。結果、残ったのは若年層と高齢層の2極化。

ちなみに、新入社員も8割は3年以内に退職を選択している。

年齢が高かったりスキルのない人はそこに残らざる得ないため、転職の選択肢がないからギリギリまで働き、最後は体か精神を病んで辞めていく。身体もメンタルもある程度タフな人だけが残れるが、そんな人は多くはない。もし自分の友達がこの会社に勤めていたら、即効で別の仕事を探した方がいいと勧める。

 

何かで読んだけれど、いつのまにかどこに行っても「無難でそつなく仕事をこなす人」ばかりになっている、と書かれていた。いまでいう発達障害のような特性を持っている人が昔は職場に一定数はいた気がするけれど、最近目にすることが減った。それって「無難でそつなく仕事をこなす人」「平均的な人」しか社会に残れないようになってきてるってことではないかという話。たしかに、生産性を追求した結果、余白のないノートのようにぎゅうぎゅうでゆとりがない世の中になってきている気がする。

 

わたしも彼女も、なんなら亡くなった人も「ここはなんかおかしい」と気づいてはいた。営業成績の悪い新入社員が、全員の前で「人間やめろ」レベルの罵倒をされて会社に出てこれなくなったり。(ノルマを達成しても手当はないが、達成しないと評価が下がり給料も減額)うつ病になって休職している社員のことを、役職のある人間が平社員と一緒になって笑いものにしていたり。ストレスで手が震えて字がうまく書けなくなったり物忘れが激しくなった人を「またミスをした」と大声で指摘・非難してさらに追い込んだり。

 

一番悪いのは、わたしも含めそれを止める人が誰もいなかったことだ。

 

いや、誰もというのは言いすぎかもしれない。100人に1人くらいは止める人はいた。いたけれど、その人をもってしても「しょうがない」と言わしめるような環境だった。まだ若かったわたしは理不尽なことを「しょうがない」と諦めることができなくて、会社を改革するプロジェクトのメンバーにもなったりした。それでも、なにも変わらなかった。そもそも巨大な組織を変えようなんてことは、ワンピースの「ゾウ」を倒そうとアリンコが挑むようなものだ。無謀に挑んだら一蹴されて終わる。だから変わらないとかムダだとか、そういうことじゃなくて。

 

「元のようには治らない」と言われた今の病気になってからは、会社を変えようなんてことより、自分の足元をいかに居心地よくしていくかということを考える。それでも、理不尽なことを「しょうがない」と流してしまえないのは変わらない。先日出席した「治療と仕事の両立支援セミナー」で、ある企業の部長が言っていた。「組織の中でルールとして決めてしまうと簡単に変えられない。ルール外のケースにどう個別対応していくか。それが社員が働きやすい環境を作るには大切だ」

 

世の中にはどうしようもない状況を変えることにエネルギーを使うより、退避した方がいい場合もある。関ヶ原の戦いで「負け」が決まった途端に無駄な戦いはせず敵陣のど真ん中を走り抜けて逃げ切り、被害を最小限にとどめた島津軍のように「そこを撤退するタイミング」を察知したら逃げ出すのもひとつの選択肢だと思う。

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